わたくしが初めて医学の教育を受けた大阪は、幕末に当地で適塾を開いた緒方洪庵の気風が強く、洪庵の教えをよく聞かされて育ちました。洪庵は、「医師というものは、とびきりの親切者以外は、なるべき仕事ではない。」といい、門人への教えとした「扶氏医戒之略」において、「医の世に生活するは人の為のみ、おのれがためにあらずということを其業の本旨とす。」といっております。
臨床医になって、病状というものは刻々変化するものであり、患者さん中心に動かざるを得ない状況を幾多体験してきた今、納得のいく言葉であると痛感します。大学の事務員のかたのわたくしへの餞別の言葉「名医になるより良医であれ」も、この線上にある言葉として、重く受けとめている次第です。