睡眠時無呼吸症候群とは
生活習慣病として糖尿病や高血圧、高脂血症などが有名ですが、近年、自覚症状の全くない生活習慣病として睡眠時無呼吸症候群が注目を集めています。中等症や重症の場合には、8時間寝ても9時間寝ても昼間眠い、ということで気が付く場合もありますが、自覚症状が全くない人も多いのが要注意です。
中等症以上の無呼吸があるにもかかわらず自覚症状がない人は、いったん治療を開始してみて初めて今まで実は眠かったことに気が付くことも多いのです。
日本国内だけでも軽症も含めると2200万人の患者さんがいて(成人男性の3~7%、成人女性の2~5%)、糖尿病と同頻度で発症するともいわれている睡眠時無呼吸症候群とは、睡眠中の無呼吸やいびきによって良質な睡眠が妨げられる病気で、その結果として引き起こされる日中の強い眠気による事故が大きな社会問題となっています。
更には、睡眠中に体内の酸素量が低下して重症の場合は放置すると発症10年以内に20%の人が心筋梗塞や脳卒中などで死亡し、睡眠中の突然死も数倍にリスクが増えます。更に放置すると発症15年以内に40%の人が死亡しています。
睡眠時無呼吸症候群の症状
(1)大きないびきをよくかく
(2)日中、強い眠気や倦怠感に襲われることが多い
(3)夜間、トイレに起きることが多い
(4)早朝、頭痛が起こりやすい
(5)高血圧で降圧剤を服用しているのに血圧が下がりにくい
といった症状が複数当てはまる場合に可能性が疑われます。
上記の症状を説明すると、(1)空気の通り道である上気道が狭くなっている結果、睡眠中に無呼吸状態(10秒~2分間)と大きないびきを繰り返します。
(2)夜に何回も覚醒して睡眠の質が悪化している結果、日中に強い眠気や倦怠感に襲われます。
(3)無呼吸になると心臓に大きな負担がかかるので、その負担を軽減させるために利尿を促すホルモンが分泌されるため、夜間のトイレの回数が増えます。
(4)夜間の無呼吸が多いと全身の酸素量が低下するので、起床時に頭痛が起こりやすくなります。
(5)血圧は通常、睡眠中は下がるものですが、睡眠時無呼吸症候群の場合は、無呼吸の度に血圧が上がってしまうため、一日中血圧が上がった状態になり、それを毎晩繰り返していると血圧のコントロールが難しくなり、降圧剤が効きにくくなっています。
睡眠時無呼吸症候群の原因による分類
睡眠無呼吸症候群は、睡眠中の無呼吸の原因によって閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)と中枢性睡眠時無呼吸(CSA)に分類されます。
(1)閉塞性睡眠時無呼吸
睡眠中に空気の通り道である上気道が狭くなったり、一時的に閉塞したりすることによって発症します。
1.肥満による首や喉周りの脂肪(成人の主な原因):首周りの脂肪は仰向けの状態で横になると重力にしたがって気道を圧迫するため、上気道のスペースが狭くなります。
2.妊婦
3.生まれつき舌や扁桃、アデノイドが大きかったり顎自体が小さかったりすることで、横になると舌根沈下(舌の根元が喉に垂れ下がって上気道が狭くなる)などが生じやすくなる。
4.鼻閉:慢性的な鼻炎など、鼻の病気によって空気の通り道が狭くなる。
5.寝る前の飲酒
6.閉経後の女性:中年期までは男性が圧倒的に多い。一方、中等症以上の発症頻度が閉経前の女性で1.5%だが、閉経後は9.6%と、閉経後に閉塞性睡眠時無呼吸の発症リスクが上がる。
女性ホルモンには上気道を広げる作用があるが、閉経後に女性ホルモンが減少すると、上気道を広げる働きが弱まって無呼吸を起こしやすくなるためである。
これらが肥満症や高血圧症などの基礎疾患と重なることで、さらに発症頻度が上昇すると考えられています。
(2)中枢性睡眠時無呼吸
脳、神経の中で呼吸をつかさどる延髄の“呼吸中枢”の異常によって、正常な呼吸運動ができなくなり発症するタイプです。
はっきりとした発症の原因は分からないことも多いですが、心不全や腎不全を発症しているケース、脳梗塞や脳出血の後遺症、生まれつき脳に形質異常があるケースなどで発症しやすいとされています。
睡眠時無呼吸症候群に対する検査とCPAP療法
【当院における検査と治療の方針】
終夜睡眠ポリグラフィー(携帯用装置)を患者さんに渡して自宅で二晩、睡眠時無呼吸の状態を記録してもらい、1時間当たり20回以上40回未満の頻度で無呼吸低呼吸が認められれば福井県立病院呼吸器内科で一泊入院して精査します。その結果、CPAP療法が適応となった場合は、福井県立病院でCPAP療法を開始し、その後当院でCPAP療法を引き継いで施行します。1時間当たり40回以上の無呼吸低呼吸が認められた場合は福井県立病院を介さずに当院で直ちにCPAP療法を開始します。
当院は睡眠時無呼吸症候群の診断と治療を行う医療機関です。
治療は耳鼻咽喉科的治療とCPAP治療を行っています。
睡眠時無呼吸症候群の治療
睡眠時無呼吸症候群の治療は生活習慣の改善が基本です。
睡眠習慣の改善はすべての患者さんが行う必要があります。肥満を伴う患者さんには減量指導も行います。生活習慣の改善に加えて、CPAP,マウスピース、舌下神経電気刺激療法を、症状や身体状態などから選択して行います。
1.CPAP(経鼻的持続陽圧呼吸療法)
睡眠中に機械で圧のかかった空気をマスクで覆った鼻から気道に送り込んで狭くなった気道を広げて閉じないようにすることで睡眠中の無呼吸を防ぐ治療法です。
CPAPの効果は非常に高く、日中の眠気がなくなる、高血圧の薬が減らせるほか、心筋梗塞や脳卒中などを発症する危険性を通常と同程度まで低下させることが分かっているため、全国的にも広く行われています。CPAP療法は中等症から重症の患者さんに行う治療法です。CPAPの機器にはさまざまな種類があり、それぞれ特徴が異なります。一部分だけを取り外して使用できるタイプも登場しており、出張や旅行などで外泊する際に携帯しやすくなっています。
2.マウスピース装着
顎が小さい、舌が大きいなどの原因で睡眠時無呼吸症候群を発症している場合は、下顎を前方へ移動させるようなマウスピースの装着が行われることがあります。マウスピースを用いた治療は、軽症から中等症の患者さんに行います。歯ぎしり用のマウスピースとは異なり、歯型を取って下あごを少し前に出すような形をしたマウスピースを噛んで寝ます。下あごが前に出るようになることで気道が広がり、睡眠中の呼吸を改善できます。
3.従来の手術
小児などに多いアデノイドや扁桃肥大、成人の鼻中隔彎曲症,肥厚性鼻炎などの器質的な異常が原因となっている場合は、アデノイド切除術、扁桃摘出術、鼻中隔矯正術,下鼻甲介切除術など、その原因を改善するための手術が行われることも少なくありません。
また、肥満などによって気道が狭くなっているケースでは、扁桃腺を取り、上あごである軟口蓋粘膜とのどちんこ(口蓋垂)の一部を切除して縫い合わせ、のどの空間を拡げる口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(UPPP)が行われることもありますが、手術後に副症状(患部の狭窄や傷跡)が出現するなどの報告もあり、推奨はされていません。
4.最新の手術 舌下神経電気刺激療法
2021年に保険適用になった治療法です。鎖骨の下とあごの2箇所を切開する手術を行い、右の鎖骨の下にパルスジェネレーターと呼ばれる機器を入れ、あごの下にある舌下神経に微弱な電流が流れるリードを巻き付けます。呼吸をする度に舌下神経に電気刺激が伝わり、それによって舌が前に出るようになります。舌が前に出ることで気道が確保される仕組みです。就寝前に起動用の装置(コントローラー)のスイッチをオンにして胸元に近づけるとパルスジェネレーターが作動します。中等症以上の患者さんはCPAP治療を行うのが原則ですが、CPAPのマスクでかぶれてしまって使えない、送り込まれる空気の圧が強くて使えないなど、CPAPの継続が難しい患者さんに行う治療です。