当院の医療理念
わたくしが初めて医学の教育を受けた大阪は、幕末に当地で適塾を開いた緒方洪庵の気風が強く、洪庵の教えをよく聞かされて育ちました。洪庵は、「医師というものは、とびきりの親切者以外は、なるべき仕事ではない。」といい、門人への教えとした「扶氏医戒之略」において、「医の世に生活するは人の為のみ、おのれがためにあらずということを其業の本旨とす。」といっております。
臨床医になって、病状というものは刻々変化するものであり、患者さん中心に動かざるを得ない状況を幾多体験してきた今、納得のいく言葉であると痛感します。大学の事務員のかたのわたくしへの餞別の言葉「名医になるより良医であれ」も、この線上にある言葉として、重く受けとめている次第です。
クリニックへは、なんらかの体の不調をもったひとが来られるわけです。体調のすぐれないひとに対して、積極的に笑顔で声掛けするなど、病気のひとに対する優しさ、おもてなしのこころが必須です。そして、この優しさ、おもてなしのこころは健康なひと、例えばスタッフ同士や、患者さんの付き添いのひとに対しても向けられるべきです。こうした気持ちを持つためには、今の自分があるのは、決して自分ひとりが生きてきた結果ではなく、多くのひとから支えてもらった結果である、という認識、言い換えれば、感謝し感謝されるこころを持つことが必要であると考えます。医療の現場においては、この感謝の気持ちをベースにして、笑顔と礼儀正しさを忘れず、仕事に邁進していきたいと存じます。
当院は単一の診療科を追及する機関です。複数の科を有する病院と違って、あくまでも専門の科目を掘り下げ、追及する機関です。看護師も、どこの病院の耳鼻咽喉科の看護師とも違う、専門の検査技術、疾患の理解をもった看護師に育てるべきであるという考えのもと、聴力検査も専門的に掘り下げて指導しております。入院は近隣の病院にお願いしておりますが、外来通院は当院で完結できるよう正確なフォローアップをこころがけております。この専門性が当院の社会的立ち位置の根幹であると考えております。職員は、医師、看護師、医療事務のすべてが耳鼻咽喉科のプロとしての意識を高く持つように努めてまいりたいと存じます。そのためには、知識欲など成長欲を持ち、常に自己の改善に努めることが肝要です。職員の個々の持つ成長欲を出させ、ポンとひと押しすることが院長の務めであると日々考えております。また、看護師、事務といった仕事の固定化にとらわれず、各々が、資格の不要な範囲で相互のお手伝いをすることも、小さなクリニックとしては重要な要素と考えております。