耳鳴り
当院における耳鳴りの治療
耳鳴りは耳鼻咽喉科医にとって最も難しい症状であると言われます。まず耳鳴りは患者さんにしか聞こえません。
一方、医師の側からすれば、聴力検査でいろんな音を聞かせて、耳鳴りはどんな周波数のどんな音なのか?音量はどれくらいなのか?と大体のことはつかめますが、本当に正確なことはわかりません。
わたくしが医師になった1985年、耳鳴りの治療は筋緊張弛緩剤と精神安定剤、ビタミン剤、血行改善剤を組み合わせた西洋薬の内服治療と、キシロカイン静注療法が主体でした。しかし、これらの治療で効果が出る患者さんは少数でした。
また、1977年にアメリカのVernonによって考案されたマスカー療法も施行されていました。毎日1~3時間、マスカー治療器を耳鳴りのある耳に装着して耳鳴りより大きな音を聞かせ続けると、60~70%の患者さんの耳鳴りがいったんは消失あるいは減弱しますが、その効果の持続は短時間で一時的であって、気がつけば元の「耳鳴りが同じように気になる」状態に戻ってしまうこと、耳鳴りが大きすぎる場合には大きな音を長く聞きすぎて難聴が進んでしまう恐れがあったこと、音過敏の患者さんには適応にならないなどの欠点があってそれほど普及はしていませんでした。
その後に登場した鼓室内ステロイド注入療法は、突発性難聴には効果があったかもしれませんが、耳鳴り、特に慢性化した耳鳴りには大きな効果を感じることはほとんどありませんでした。
そうした中、1980年代後半にアメリカのJastreboffによって考案され、ヨーロッパで広まったTRT療法が世界を圧巻してきました。これはサウンドジェネレーターと言う「音や音楽を発する補聴器」を耳鳴りのある耳に装着して、耳鳴りの8割の大きさの音や音楽を毎日6時間以上聞かせます。治療中は耳鳴りと器械からの音・音楽の両方が聞こえていますが、この二つの音の対比を感覚することで耳鳴りに対する慣れの現象(順応)を促進させることがこの治療の最終目的です。このとき患者さんは耳鳴りはあるが、ほとんど気にならないという状態になります。マスカー療法が耳そのものに働きかけたのに対し、TRT療法は脳に働きかけます。耳鳴りに対する慣れの現象は複雑な脳の神経心理学的な過程です。単にジェネレーターの音を聞くだけでなく、Jastreboffによって考えられた耳鳴りの発生理論に基づいて、懇切丁寧に「耳鳴りを気にしないことの重要性」を説明するカウンセリングを併用することが必要です。順応の反応は短時間で起こるものではなく、治療は長期にわたるのが一般的です。その一方で治療効果は長期にわたって持続するものと考えられています。
当院では十数年前からこのTRT療法を開始しました。石川県金沢市以南、福井県全域から患者さんが来院しています。
当院における耳鳴りの治療法
(1)内服治療
近年の耳鳴りの薬は漢方薬が主体となっており、時に2種類の漢方薬を組み合わせて使用します。西洋薬を併用します。
(2)鼓室内ステロイド注入療法
(3)キシロカイン静注療法
(4)TRT療法
耳鳴りの治療は、まず内服や点滴で治せるものは治し、治らないものは耳鳴りの慢性期の内服治療を行います。
それでも治らなければ鼓室内ステロイド注入療法(鼓膜に薬液を注入する方法で、1~2週に1回、計4回施行します。症例は限定されます)、やキシロカイン静注療法(薬液を週に1回静脈注射します。症例は限定されます)、あるいはTRT療法を行います。
TRT理論
人には生まれた時にすでにすべての周波数の耳鳴りが脳の中でしていますが、耳鳴りは不要なものであるため、脳の力で聞こえないようにしているのです。
しかし人生の途中で、ある周波数の音が難聴になったとき、自然とその周波数の音に対して耳を澄ますようになります。すると本来鳴っている、その周波数の耳鳴りの存在に気付いてしまい、一度気付いてしまうとずっと気になるようになるために耳鳴りを感じるようになるのです。
したがって耳鳴りを消すには聴力を耳鳴りがする前の段階の聴力に戻すしか方法がありません。しかし薬物療法で治る疾患には限りがあり、薬物適応の疾患においてもすべての症例で治るものではありません。そこで補聴器によっていったん聴力を改善して耳鳴りを改善し、その効果をより永続的にするために考え出されたのがTRT(tinnitus retraining therapy)(耳鳴り順応療法)です。
近年、木の枝の葉のつながりのように同じ曲調でありながら決して同じ音を繰り返さない音楽が耳鳴りの治療に有効であると証明されています。そのオルゴールのような音楽を、世界の補聴器6大メーカーの一翼にして特に補聴器の音質にこだわりを持つと定評のあるワイデックス社(デンマーク)が開発し、雑音と併用で、あるいは雑音の代わりに使用されることで、より多くの人に、より多くの効果を得るようになりました。この音楽は、長時間聞いていても飽きない、刺激的でなく聞き流せるといったリラックス効果をもたらします。
当院ではこのワイデックス社のTRT機器を使用するTRT療法を第一選択としていますが、患者さんによっては、世界の補聴器6大メーカーの一翼であり、補聴器による聞こえの改善と快適性に定評のある、世界最古の補聴器メーカーのシグニア社(旧シーメンス社)(ドイツ)のTRT機器を使用しています(要予約)。一口にTRTといっても、患者さんによって、メーカーによる相性の差があるためです。
具体的に説明すると、ワイデックッス社のTRT療法は、ワイデックス社独自で開発したフラクタルトーン(オルゴールのような音)とホワイトノイズで代表される雑音と補聴器機能の3つの組み合わせで施行します。しかし時にはこれらのいずれの機能も合わない患者さんもいるのです。そうした患者さんに対して、フラクタルトーンこそ無いものの、ワイデックス社にはない種類の雑音を持ち、ワイデックス社とは全く違う観点から作られた補聴器機能を持つシグニア社のTRTが効を奏する場合があるのです。
TRTは2か月間、当院で調整しながら無料体験ができます。費用は毎回、医師の診察代のみとしております。
耳鳴りでお困りの方はぜひご体験ください。
なお、当院でTRTを始められた患者さんについては、TRT施行後も必要な限り定期的に診察して経過をみております。
なお、当院でTRTを始められた患者さんについては、TRT施行後も必要な限り定期的に診察して経過をみております。
耳鳴り治療器(サウンドジェネレーター)の使用効果
個人差はありますが、概ね次のような経過をたどります
■1ヶ月:耳鳴り治療器の使用で耳鳴りが楽になった。
■6ヶ月:耳鳴り治療器に慣れてきた。
■12ケ月:耳鳴りを意識することが減った。
■18ヶ月:耳鳴り治療器の使用を忘れることがある。
■24ヵ月:耳鳴り治療器を使用したほうが楽である、または、不要になることがある(難聴がある場合は補聴器としてのみ使用)。
耳鳴りを消してしまう治療法ではありませんが、カウンセリングとサウンドジェネレーターの療法を施すことにより、耳鳴りの患者さんの6~8割の方が耳鳴りを意識しなくなります。
